ダークソーシャルを狙うスポーツブランドのマイクロインフルエンサーマーケティング-アディダス・リーボック

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マーケティングの大きな変化の波が、スポーツ業界から始まっている。マーケティングに常に新しい方法を取り入れて、最先端を突っ走ってきたスポーツメーカー・アディダスが、新しいインフルエンサーマーケティング戦略を進めている。大きく広告を打つのではなく、地元・顔見知りといった少し古く思われるような関係に着目した、マイクロインフルエンサーマーケティングだ。


インターネットマーケティングの7割は未開拓?

20世紀から宣伝のカタチは大きく変わってきた。売る側と買う側の対面でのやり取りから、新聞・テレビを使った広告へ、そしてインターネットを使ったホームページや公式SNSでの宣伝。メガインフルエンサー(有名タレントやアーティスト)を起用して莫大な額の資金が宣伝に使われているが、実際に顧客が商品を購入するきっかけは意外なところにある。

「リンクをクリックしてホームページを訪れる人の7割は、TwitterやFacebookではなく、ダークソーシャルを経由しています。」

去年のフェスティバル・オブ・マーケティングで、アディダスの世界ブランドコミュニケーション担当者、フローリアン・アルトはこう語った。サイトへのアクセスのうち、ブラウザで直接検索した場合や企業の公式SNSのリンクを踏んでいる場合には解析ができるが、大半はどこからのアクセスか分からない。これを「ダークソーシャル」といい、多くはFacebook付属のMessengerやLINE、WhatsAppからのアクセスと考えられている。

ダークソーシャルの存在はかなり前から知られていた。サンフランシスコのマーケティング会社・ラディウムワンは、インテルやルイ・ヴィトンなど有名企業へのアクセスのおよそ90%がダークソーシャルを経由しているという衝撃的なリサーチを発表し、ブランドはFacebookやTwitterに集中していると説明している。しかし、どのような方法を取ればこの層にアプローチできるのか、はっきりした答えは出ていない。

これまでの企業の宣伝は、だいたい自社の媒体での配信に限られていた。しかし、実際には購買のカギを握るのは、日本でいえばLINEなどの個人的な会話だった。日常会話に影響を与えていくためには、一方的に情報を発表したり、俳優などの超有名人をCMに起用したりするだけでは足りない。地元での人気者、ちょっと知られているインフルエンサー、そういった普段から会話に登場する人に活躍してもらわなければ効果を上げられないという認識が、広まりつつある。


ネットワークでつながった新たなスポーツチーム Tango Squad

アディダスのインフルエンサーマーケティング計画

世界中の15の大都市に住む16歳から18歳までの、ネットでサッカーに関して発信しているスポーツが好きな人々をチームに組織する。このチームは、アディダスが初めて販売したサッカーボールにちなんでTango Squadと名付けられている。まさに、新しい戦略のキックオフにふさわしい名前だ。

メンバーは、アディダスの社内の部署と連絡を取り合い、公式に発表されるよりも前に新商品を受け取る。メンバーは自分のTwitterやInstagramで商品を使っているセルフィ―を公開する。スポーツ選手との交流イベントに参加することもできて、その様子もSNSでシェアされる。 Tango Squadページのトップの「街で一番の有名人になろう」という言葉、Twitterと並んでInstagramのアカウントを記入する募集フォームは、まさに新しいマーケティングを象徴している。

アディダスはこれまで、スポーツ用品のほとんどを消費する大都市をターゲットにしたマーケティングを進めてきた。それを引き継ぎ、膨大な数の潜在的カスタマーを惹きつけるために、地元で有名なインフルエンサーを使って、草の根の活動でスポーツ用品の良さを広めていく。

「現在、多くのブランドが事前に準備し、事前に決定した方針で、まるで出版のようにSNSを使っています。Tango Squadは、コンテンツを生み出してコミュニティに呼びかけるまったく新しい方法だ。」

と、アルトは語っている。

さざ波のような派生効果

メンバーがセルフィ―をシェアして終わり、というわけではない。メンバーは、アディダスのスポーツ用品を実際に使ってみて良いと感じれば、Messangerなどで友人にリンクを送るだろう。それを見た友人がリンクをクリックして商品を購入したり、さらにリンクをシェアするということもありそうだ。メンバーがリアルでも人気がある場合、シェアされる友人の数も多いので、シェアの輪が長期にわたってかなりの人数に広がっていくと考えられる。

「強い結びつきを持った子供たちは、みんなの関心を惹くことができます。子供たちは個人チャットでシェアするから、商品に信頼と長いスパンでの宣伝効果を与えてくれる。企業からレコメンドされるよりも友達からリンクが送られてきたほうが、商品が欲しくなるでしょう。」

信用できる友だちが勧めてくれたものなら、安心してスポーツ用品を買うことができる。その連鎖が続いていく。大きな広告を何度も打つ必要はない。一度インフルエンサーに働きかければ、長い期間にわたって購買意欲を高めることができる。

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リーボックのインフルエンサーマーケティング

リーボックはスポーツブランドの老舗だが、2006年にアディダスに買収され、14%売り上げが減少するなど、業績が低迷していた。そこで、プロアスリートとの契約のほとんどを止め、代わりに「クロスフィット」というジムと契約した。そして、クロスフィットのメンバーが使うスポーツウェアをリーボックが提供することになった。

クロスフィットは90年代に創業し、今では世界中に展開している。その華々しい成功は徹底した勧誘活動によるものだ。成果を手に入れたメンバーは、友人に経験を話し、セルフィ―を公開することによってさらにメンバーを増やしていく。クロスフィットは世界有数のスポーツジムで、アメリカの警察でも手法が採用されており、決して怪しい組織ではない。人と人とのつながりを利用して拡大していく、典型的なマイクロインフルエンサーマーケティングの手法を導入している。

クロスフィットを味方につけたリーボックは、再びスポーツ業界で存在感を強めている。その理由の一つは、帰属意識が強いスポーツコミュニティの意見を集約して、誇りをもって使える商品を作ったことである。クロスフィットの習慣を受け入れ、メンバーに愛されるデザインを考えたことにより、企業の体質が改善された。

しかし、クロスフィットの伝統的な勧誘方針を生かし、メンバーをインフルエンサーとして利用できたことが最も大きいだろう。クロスフィットのメンバーには、ジムに所属しているとアピールすること、ソーシャルでジムについて発信することが求められている。メンバーはそれぞれ自分のワークアウトの様子を写真に撮ってインスタグラムに投稿する。リーボックのウェアを着たセルフィ―や動画を見た、メンバーの友人もリーボックに関心を持ってくれる。コミュニティに密着したインフルエンサーマーケティングだ。

リーボックの革新は止まらない。従来、スポーツブランドはイベントに名前を貸すだけにとどまっていたが、リーボックはイベントにスポーツウェアを提供する、リーボックの名前の付いたレースを開催するなど直接関与している。

最近では米軍基地を使って大掛かりな障害物競走、リーボック・スパルタン・レース・ジャパンが初めて開催されたが、その際にも公式ウェアの販売を行い、参加者が気軽にセルフィ―を投稿できるようにしている。入賞経験のあるボディビルダーやマラソン大会で記録を残した人、スポーツトレーナーなどをゲストチームとしてイベントに招待している。世界中に届けるパワーは持っていないが、ソーシャルコミュニティの中ではよく知られた人を呼び、楽しみながらインフルエンサーとして発信してもらう手法は、リーボックにとどまらず多くのスポーツイベントで主流になりつつある。イベントもインフルエンサーマーケティングのチャンスなのだ。

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マイクロインフルエンサー戦略はインフルエンサーマーケティングの主流になるのか

Tango Squadの方針について、アルトは強い自信を持っている。アディダスのプロジェクトが、マイクロインフルエンサー(1,000人から1、2万人くらいのフォロワーがいる比較的小規模なインフルエンサー)を新時代のインフルエンサーマーケティングの主人公にし、「インフルエンサーマーケティングの再定義」を成し遂げたと考えている。

「100万人のフォロワーのいるインフルエンサーにスポーツ用品をあげるよりも、2,000人のフォロワーのいる500人に渡した方が、コマーシャルはずっと信頼してもらえる。」

TwitterやFacebookと違って、ダークソーシャルにターゲットを絞った戦略がそれ自体でどれだけの効果を上げたのかは測定できない。それぞれの子供たちから送られてきたレポートに頼るしかないからだ。

だが、アルトは3か月間でTango Squadが大成功を収めたと考えている。そして、アディダスのブランドイメージも向上した。公式発表の前にスポーツ用品をゲットできるので、メンバーはアディダスのチームの一員に選ばれて、一緒に仕事ができることをとてもうれしく思っているからだ。

アディダスにしても、リーボックにしても、マイクロインフルエンサーマーケティングが利益向上に直接どれくらい貢献しているのかを正確に把握しているわけではない。しかし、テレビや公式アカウントで有名な芸能人を起用するだけではダークソーシャルに食い込むのは困難だ。LINEやMessangerのやりとりに直接介入できない以上、できるだけ会話で取り上げてもらえるように工夫していくしかない。

ビッグな影響力を持つタレントやアイドルを起用したコマーシャルは今後も継続していくと考えられるが、並行して草の根レベルでどのように対策していくか考えるかは、今後不可欠になってくるだろう。インフルエンサーマーケティングの模索は続いている。



参考:https://www.marketingweek.com/2016/10/06/adidas-on-redefining-influencer-marketing-through-dark-social/, http://www.adidas.com/com/apps/tangosquad/, https://medium.com/above-the-noise-by-mavrck/how-reebok-achieved-11-consecutive-quarters-of-growth-through-micro-influencers-ad60b291731d, https://www.marketingweek.com/2015/08/07/brands-are-too-pre-occupied-with-facebook-and-missing-out-on-dark-social/

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